2026/10/28

AI時代のトレンドは「個別最適化」か

情報漏えい事案が連日ニュースをにぎわせている。PHPのようなゼロデイを除けば、基本的には既知の脆弱性を総当たり的に狙ったものとみられる。現代のソフトウェアはさまざまなモジュール・ライブラリに依存して作られていることが多い。筆者が数年前にセキュリティ領域を取材していたときにも、Log4jというJavaでよく使われるロギングライブラリに深刻な脆弱性が見つかり、業界は大慌てで対応に追われた。では、AI時代においてこのような脆弱性にどう対応するべきか? その答えのひとつには「パッチ対応をより自動化する」もあるが、もうひとつには「外部モジュールへの依存を減らし、自前で実装する」という考え方も出てきている。つまり、外部モジュールを利用するのはそのうちのいくつかの機能が有用だからであって、全ての機能を使うとは限らない。外部モジュールを使えば使うだけ、そうした「自社には不要な機能」が積み重なる。不要な部分が多ければ多いだけ脆弱性の発生率が上がりうる。ならば、「自社に必要な機能」だけをAIで実装する方が安全ではないだろうか。もちろん「AIの実装の安全性」は担保しなければならない。ここには課題もあるだろうが、筆者が観測した限りでは、ITセキュリティ専門家の高木浩光氏も概ね同様の考え方をされているようだ。

少し話題は変わるのだが、AIの動かすためのエンジンやプロセッサにも「個別最適化」の流れが来ている。LLMをローカルで動かすならば、推論エンジンはllama.cppかvLLM、プロセッサはNVIDIA GPU、というのがこれまでは「汎用的な答え」だったところ、推論エンジン側では「Strata」など、特定のLLMと特定の計算環境向けに最適化したものが生まれ始めている。プロセッサ側では、記事の1本目に取り上げたPFNとTenstorrentのタッグが興味深い。PFNといえば国産LLMの「PLaMo」を作っているのは知られていると思うが、実は「MN-Core」というスパコン向けプロセッサも長く作っている(神戸大と共同)。そのMN-Coreの次世代「L1000」はGPUに代わるようなアクセラレータとなる予定で、しかもメモリ帯域幅は35TB/sという、化け物のような速度を開発目標に置いている。NVIDIAの次世代Rubin GPUのメモリ帯域幅は現時点で19.2TB/sと同社は伝えているので、Rubinをも上回ることになる。もっとも、NVIDIAはNVLinkによるGPU間の高速データ通信によってさらに大規模な処理を可能とする。MN-Core L1000に同様の機能が載るかは不明だ。しかし、CPU側を担当するTenstorrentは“天才”ジム・ケラーが率いている。Tenstorrentのアクセラレータ「Blackhole」はすでにNVLinkのような高速データ通信に対応しているので、2社がタッグを組むことで、「LLMに最適化したCPU・アクセラレータ・ネットワークから成る計算システム」というものが生まれるのかもしれない。(井上)